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[2013.8.30]連続セミナー『教育と刃物』3

刃物×子どもの発達 第1弾

第3回 肥後守で鉛筆を削り続ける小学校

刃物と教育の事情に通じた講師12人による年間リレー式の連続セミナー。第3回は子供のうちから刃物を使わせることの必要性を説き、入学時に全員に肥後守(ひごのかみ)をプレゼントする試みを始めた会染小学校のお話しです。是非お越し下さい。

 

刃物刃物刃物

長野県の安曇野に、肥後守(ひごのかみ)という折り畳み式小刀で児童に鉛筆を削らせている会染小学校があります。今から30年前、子供たちの指使いや、日常の身のこなしに大きな変化が起こっていることを感じた当時の校長、二村汎(にむらひろし)さんが始めた実践運動です。

 

保護者(地域)や教員に、子供のうちから刃物を使わせることの必要性を説き、入学時に全員に肥後守をプレゼント。子供たちは学校や家庭で鉛筆削り機を使わず、自分の肥後守で鉛筆を削ります。学校には砥石も置かれ、切れが鈍ってくると子供たちは自分で研ぎあげます。

 

削る、研ぐといった作業は、ひと昔前の子供たちは普通こなしてきたことですが、会染小学校で行なわれている取り組みは、現代の常識から見ると極めて希な例に映ります。私たちがそう感じるそもそもの理由はなんなのでしょうか?

 

その後、刃物を使った凶悪犯罪などがたびたびクローズアップされますが、子供たちに刃物を使わせる運動は後の校長先生たちに引き継がれ、現在も校区のシンボルとなっています。この取り組みの背景と経緯、成果について、エコセン理事でジャーナリストの鹿熊勤(かくまつとむ)が、発案者の二村汎さんに取材してきました。5年前の25周年の際に、肥後守職人・永尾元佑さんを招いて同校で開催された記念行事の様子と合わせてご報告します。

 

なお、この連続セミナーでは、刃物と人間の本質的な関係を振り返り、刃物をめぐる現状と課題、刃物教育に関する各種の先進事例、専門家による教養・実技講座など、刃物を軸にしたテーマを幅広く取り上げていく予定です。第3回目もぜひご参加ください。

【facebook】に「教育と刃物」の特設ページがあります。

>http://on.fb.me/15DC9bh

エコセンProject12

[第3回目ゲストスピーカー]

鹿熊勤氏(自然系ジャーナリスト)

 

鹿熊勤

【かくま・つとむ】1960年生まれ。アウトドアや農林水産業、日本の伝統技術などの分野で取材を続けるライター。野鍛冶を訪ね、地域の特徴的な刃物や技術を記録。訪ねた鍛冶屋は全都道府県計140軒を超える。近年は教育と文化の視点から刃物に関する提言を続ける。著書に『日本鍛冶紀行』『はたらく刃物』(ワールドフォトプレス刊)など。日本エコツーリズムセンター理事。

 

[刃物クラフト講師]

 関根秀樹氏(和光大学非常勤講師/原始技術史)

 

関根秀樹

【せきね・ひでき】1960年生まれ。和光大学や桑沢デザイン研究所などの非常勤講師。古代発火技術や民族楽器の実践研究で知られ、パプアやアフリカの狩猟採集民の火起こし名人たちと競争して勝ったり、ネイティブアメリカンの長老たちに火起こしをレクチャーしたこともある。刃物に関する造詣も深く、古代の石器や日本の鍛冶技術を含む民俗刃物に通じる。各地で木や竹のものづくりワークショップを開催。主な著書に『縄文人になる!』(山と渓谷社)、『刃物大全』(共著・ワールドフォトプレス)、『新版 民族楽器をつくる』(創和出版)など。

 

 

 

 

[開催日程]

 8月30日(金) 

 ◆第一部 初心者向け教室「ウグイス笛」づくり

  17:30~18:50

 ◆第二部 トークセミナー『肥後守で鉛筆を削り続ける小学校』  19:00~21:00

[会 場]

 日本エコツーリズムセンター (地図)

 

[参加費]

 各回/1500円(6回券割引/8000円) 第1部(クラフト)のみ大人1,000円/子ども500円

 

[コーディネーター]

山中俊幸

山中俊幸

雑誌・書籍・新聞・WEBの編集・記事制作、企業広告・商品広告の制作を行う広報のプロ。エコツアーや環境関連情報を発信するウェブサイト上の情報を一覧できる「エコツアー・ドット・ジェイピー」の制作者。

[株式会社クールインク代表/日本エコツーリズムセンター副代表理事]

 
 

 

[全12回スケジュール]

第1回

人類と刃物──考古学・文明学・身体科学の視点から

2013年6月28日(金)19:00~21:00

講師:関根秀樹氏

第2回

銃刀法の現状とその影響

2013年7月26日(金)19:00~21:00

講師:服部夏生氏

第3回

子供と刃物──肥後守(ひごのかみ)で鉛筆を削る学校

2013年8月30日(金)19:00~21:00

講師:鹿熊勤氏

第4回

子供と刃物── 冒険遊び場プレーパークでの刃物の役割

2013年9月27日(金)19:00~21:00

講師:天野秀昭氏

第5回

子供と刃物──子供と刃物──ナイフメーカーの脳育教育の取り組み

2013年10月24日(木)19:00~21:00

講師:ビクトリノックス・ジャパン株式会社 田中麻美子代表取締役

第6回

子供と刃物──山村留学のこどもが言いました。「刃物は生活のタカラモノ」

2013年11月22日(金)19:00~21:00

講師:グリーンウッド自然学校理事 佐藤陽平氏

第7回

3.11避難所での物づくり~刃物のチカラ~

2013年12月7日(土)14:00~17:30

講師:小野寺弘司氏

第8回

狩猟とナイフ──自然教育ソフトとしての解体技術

2014年1月30日(木)19:00~21:00

講師:森のたね代表 井戸直樹氏

第9回

スカウティングと刃物──世界最大の青少年野外活動組織とナイフ

2014年2月28日(金)19:00~21:00

講師:佐久間宣吉氏

第10回

森の匠の刃物講座

2014年3月28日(金)19:00~21:00

講師:佃正壽氏

第11回

野遊びと刃物 ──ガキ大将キャンプで30年間ナイフを与え続けて

2014年4月25日(金)19:00~21:00

講師:アドベンチャー集団!Do 代表 黛徳男氏

第12回

最終回 教育と刃物──刃物づくりの現場と総括(仮)

2014年5月29日(木)19:00~21:00

講師:自然系ライター 鹿熊勤氏

 

刃物刃物刃物

 

 

 

■開催の様子■

前半クラフト教室は「うぐいす笛」作りを行いました。

長さ10cm弱ほどの竹を2本用意し、一方には平な面を作り、そこに穴を開けます。もう一方は先端を斜めに切り、先ほどの平らな面にくっつける、という簡単な工程です。ですが、竹というのは硬くて丸く、削りにくい素材です。意外と時間がかかります。

 

切る工程が終わったら、2つの竹の穴をあわせ、音が鳴る位置を探します。絶妙な位置にくると「ピー」と鳴ります。音がしっかり出て「ホーホケキョ!」とうまく鳴らすことのできた時というのは、まるで初めて自転車に乗れたときのようにいくつになっても嬉しいものです。

企画運営の立場では起きてほしくないことですし、参加者にとっても起きないに越したことはないのですが、今回、指を切った人が2人出てしまいました。ひとりは小学生、ひとりは大人の参加者です。さほど大きなけがではありませんでしたが、手を切った小学生は、その痛さに思わず泣いてしまいました。でも、周囲の大人たちが、「おおっ、でかした」というように励ますので、そのうち泣くのを止め「俺も一人前になったな」というドヤ顔をしているのでした。指を切ること自体が貴重な経験になりつつあり時代ですが、やはりこんな経験も大事だと考えています。

 

後半のセミナーでは、そんな子どもが刃物を使うことがいかに大切かということを、30年間「肥後守」という刃物を使用して取り組み続けた長野県会染小学校のお話しです。

肥後守とは、日本で戦前から使われていた簡易折りたたみ式刃物です。かつてはいたるところで買うことができ、しかも非常に安いため、子どもでも手軽に買え、田舎の男の子ならほとんどの子が持っていました。

肥後守は、子供たちの暮らしのあらゆる場面で使われました。とくに学校が終わってからの川遊びや山遊びには欠かせない道具で、マッチと共に、いつもポケットに1本入っている必需品であり宝物でした。

 

会染小学校で1983年に始まった刃物を使用した取り組みは二村(ひろし)先生が提案し、始まりしました。

先生が教員を志したころ「手は第二の脳である」ということが教育の世界では盛んに言われていたそうです。しかし、いざ教員になってすぐ「最近の子の手はおかしいな」と感じ始めました。例えば、木造校舎の窓のカギは、当時手回し式で平べったいネジをギュっと押して鍵穴を感覚で探ってぐいっとねじ込まないといけないが、それができない子がいたそうです。ずっとカラカラカラカラまわし続けてしまう。「これは何だろうと」と。

他にも、靴紐がほどけていても無頓着で、紐を踏んで転んで初めて事の重大さがわかって、しかも転び方が下手なので大ケガをする。つまり、動物的な機能が音痴になってしまっていたのです。

この取り組みを始めるにあたっての合意形成はなかなか大変だったようです。「昔みたいに浅沼事件なんかもあったし、何かあったらどうするんだ」というときに、二村先生は「こんな短い首ですが、私首をかけますよ」とはっきり言ったそうです。根気強く教員に、教務会に、学年主任会、PTAに伝え、議論を重ねていくことで、地域全体で取り組んでみようという合意形成ができ、入学時に1人1本プレゼントするなどの動きになったそうです。

二村先生に「成果をどう考えますか?」と聞いたとき「それは実ははかれない」とおっしゃったそうです。進学率が上がったと聞くわけでもない。本来人間として到達しておくべき指先の水準は、この会染小学校の子どもたちはクリアした。はっきりしているのは、ただそれだけというお話しが印象的でした。

 

古い雑誌で「暮しの手帖」というものがあります。生活雑誌ですが、消費者生活センター的機能を果たしています。

1978年52号で、花森安治さんという方が任意で選んだ小学校13校への取材とその課題をまとめています。

そこには、1960年に起きた社会党の委員長が少年に刺殺されるという事件のその後、警視庁はすぐに<刃物をもたない運動>をはじめ、学校には、ナイフで鉛筆を削らせないように、そして鉛筆削り器を使うように、連絡指導事項として強く要請したことが書かれています。

「これは、戦後警視庁がやったおせっかいのなかでも、もっともまずかったことのひとつ」と書かれていますが、いまは警視庁自身も「なにぶん古いことで、詳しいことはよくわからない」といっています。それなのに、学校によっては、いまだにナイフを持つのは、はっきり規則として禁止している学校がある。花森さんは、これはお上からの通達というよりは、もっと、別の理由があるのではないかと考えます。

ある先生への取材で「学校で、ナイフで鉛筆を削らせると、なかには指にちょっとしたキズをつくることだってあります。ところが、いまの父母のなかには、そんなことでも居丈高になって、学校へ乗り込んでくる、あるいは、学校ではらちがあかないとみると、教育委員会に問題をもっていく、ということがさかんなのです。私たち教師は、ほんとうは子どもたちに、ナイフを使うことなどをいろいろ教えたいと思うのですが、こういう風潮のなかでは、つい二の足をふんでしまうのです。」

つまり、刃物を駆逐したのは刃物事件だけではなく、道具や技術の発展、そして市民が消費者意識的な視点が構造の骨格なのではないかと分析し提言しています。

しかし、これを書いた年に花森安治は亡くなり、この提言は会染小学校以外、ほとんど反映されてこなかったと言えるでしょう。

30年前から気づいていたのに、それをやらなかった。このセミナーでは、長く先送りしてきた「子供と刃物の関係」について、もう一度見直し、世の中に問いかけたいと考えます。

 

 

参 加 者 の 声
  • シンプルな構造ですてきな音が出ることや、いろいろ発展させることができるのでよい教材になると感じた。おもしろいです。

     

  • 昔のことを思い出しました。やはりナイフは生活の一部であるべきだと思います。

     

  • 自分自身まったく刃物に触れてこなかったのでこれから少しでも触れていきたい。

     

  • たしかに今の子どもは刃物を持たせると危なっかしい。若い母親などの包丁の使い方より危なっかしいと感じることが多い。刃物を使わせることが危険な人間が据えることにつながるとは思えない。

     

★連続セミナー『教育と刃物』★

第3回「肥後守で鉛筆を削り続ける小学校」  

 

【ゲストスピーカー】鹿熊勤氏(自然系ジャーナリスト)

【コーディネーター】山中俊幸氏

【日時】2013年8月30日(金)

    ◆第一部 初心者向け教室「ウグイス笛」づくり

     17:30~18:50

    ◆第二部 トークセミナー『肥後守で鉛筆を削り続ける小学校』 19:00~21:00

    ★「刃物のミニ博物館」も臨時開設予定!

【参加費】1,500円(飲み物・自作クラフト作品のお土産つき)

1部のみ参加 大人1,000円 子ども500円

【協力・後援】ビクトリノックス・ジャパン株式会社

【協力】ワールドフォトプレス『ナイフマガジン』編集部

【場所】日本エコツーリズムセンター

    東京都荒川区西日暮里5-38-5 日能研ビル6F

 

日本エコツーリズムセンター地図

 

【お問い合わせ】日本エコツーリズムセンター

  TEL:03-5834-7966 FAX:03-5834-7972

 

 

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